この照らす日月の下は……
03
「カリダ!」
母は相手の名を呼ぶとまっすぐに駆け寄っていく。
「久しぶりね。元気そうで何よりだわ」
そんな彼女にカリダと呼ばれた女性が微笑み返す。
「新曲が出るたびに買ってはいるんだけど」
彼女の身体を抱きしめながらカリダは言葉を返した。
「でも、なかなか手に入らないの」
残念だわ、と付け加える。
「送れればいいんだけど」
「気にしないで。私が好きで買っているんだもの」
何か事情があるのだろうか。自分にはよくわからないけど、とキラは思う。
それよりも、だ。
もっと気になる存在がいる。
「……ママ」
とりあえずその存在に声をかけていいものかどうか。それを確認しなければいけないだろう。そう思って母の名を呼ぶ。
「あぁ、ごめんなさい、キラ。あなたのことを忘れていたわけじゃないのよ」
即座に彼女はそう言った。
「うちの子よ。見ての通り、ちょっと甘えん坊なの」
そう言いながらカリダはそっとキラの頭に手を置く。
「キラというの」
「キラです」
その手に促されるようにキラは小さく頭を下げる。
「ちゃんとご挨拶できるのね。偉いわ」
彼女はそう言って目を細めた。
「じゃ、うちの子も紹介しないと。ラクスというの」
「ラクス・クラインです」
そう言って目の前の少女がまっすぐにキラの元に歩み寄ってくる。
「わたくしと友達になってくださいます?」
そして、こう問いかけてきた。
「僕でいいの?」
キラは彼女の言葉にそう聞き返す。
「僕、第一世代だよ?」
さらにそう続けた。
「関係ありませんわ」
そう言うとラクスはふわりと微笑む。
「大切なのはその方のお気持ちです。キラはわたくしと友達になってくださいませんの?」
ラクスの言葉に嘘はないと思う。しかし、幼稚園のみんなも最初はそう言ったのだ。
「本当に僕でいいの?」
「わたくしはキラがいいですわ」
両親以外でそんなセリフを口にしてくれる相手はいなかった。だから、とキラも笑い返す。
「僕もラクスがいい」
「嬉しいですわ」
言葉と共にラクスが抱きついてくる。だけならばまだしも、ほっぺにキスまでされてしまった。
「……ラクス……」
思わず目を丸くするキラに、ラクスは笑みを深める。
「お友達なら当然のことですわ」
そう言うものなのだろうか。自信が持てなくてキラは母を見上げる。
「女の子に恥をかかせてはだめよ」
しかし、母はこう言って笑うだけだ。
「ラクス、良かったわね」
彼女の母親も同様である。つまり、彼女たちの常識ではそうなのだろう。
ならば正しいのか。
そんなことを考えてぐるぐるとしているキラの手をラクスが握る。
「あちらに行きましょう」
彼女に引っ張られるまま、キラは歩き出した。